花の絵について

バージョン 2
9月1日に亡くなった やまぐちめぐみさんが描いた花の絵。

今年の5月から6月にまたがるところで、
神宮前のタンバリンギャラリーで開催された個展で出会った絵。

「普遍的な美しさ」なんてものを知ってしまったら、
もはや描くものがないんじゃないかと、
絵を描くボクはそう考えるのだけど、

やまぐちめぐみの描いた花の絵から
一瞬「普遍的な美しさ」を感じてしまったように思い、
慌てて「いやいやいや、」とその思いを振り払ったり。

「負けた」と思い
しかし「負けてられねー!」と
自分の個展に向けて闘志に火をつけたり。

この絵だけでなく、
壁面に所狭しと散りばめられた絵の全てから
異様なほどの熱を感じた展覧会は、

やまぐちめぐみ本人は体調が追いつかず、
搬入&設営はもちろん、
会期中一度もギャラリーに来れなかったものです。

その展示のレイアウトが素晴らしくて、
彼女の絵の並ぶ空間を、彼女の作品が語られる際につかわれる
「かわいい」や「やわらか」「ふわっ」はそのままに、
しかし、ボクからしたら純度の高い美意識の熱い空間に仕立ててあり、
彼女の絵の本質的な美しさが輝いて見えていたので、
「この展示、だれがやりましたか?」とギャラリースタッフに質問。

そうしたら「スタッフみんなでやりました」と。

そういうことなんだよな。

現場で関わる人もまた、彼女の作品に心突き動かされ、
なんとか絵一枚一枚の純度を上げてゆこうとしたんだって。

絵に人を結びつける力があること、
まじまじと見せつけられたような展覧会でもありました。

そんな彼女についてちょっと。

人の語る「やまぐちめぐみ」は
やはりその絵について語られるのと同質のものであるはず。

しかし、
絵描きのボクの知る「絵描き」の彼女は、
我の強い、心の熱量の高い人。

もしくは「奔放」なんて言葉も付け加え語ってもいいかも。

そんな資質をその人生を通して絵に昇華していったこと、
とても尊敬しています。

セツモードセミナーの中庭で出会ったのが、
12年とかそれくらい前のこと。

不安定な構図の絵を描いていた世間知らずのねーちゃんは、
ボクのやることなすことに食いついてきて、
ワークショップやライブイベントにも足繁く参加してくれ、
しかし、その世間知らずゆえ、ボクに叱られることも多く、

ただ、ボクの小言の中から
「そのエネルギーをもっと表現に注げよ!」みたいなメッセージを
きっと削り出してくれたんだろうね。

ある日、とても気になる作家に成長していました。

彼女が描く典型的なモチーフ、
『真正面を向いてこちらを見ている青い目をした憂いのある少女』から
ボクは「かわいさ」なんてものより、
グルングルン渦巻く「女の子」のセクシャリティーなんてものを感じ、
恐れおののいてさえいたのかもしれません。

もしかしたら「苦手」とさえ思えた世界観が、
その後の「闘病」と呼ばれる日々の中で「美」の純度を上げていった。

「闘病」はボクが軽々しくなにか語れるほど
甘っちょろいものであるはずもなく、

されど、絵描きの言語で語る限り、
彼女は「闘病」さえも絵の美しさに昇華し、
美を全うしたんだと、

もしかしたら、
もっと大人っぽいシャープな表現を求めていたんじゃないかと
ボクは彼女から感じる資質にそんな想像をしていたのだけど、

「病」という制限を逆手に取り、
16歳くらいの彼女の世界観のみに美の純度を与える仕事が出来た?

今は『青い目をした憂いのある少女』から目をそらすこともなく
ただその美しさに向き合い、そう思うのです。

ボクの描く花の絵を見て
「アミイゴさんの描く花は、茎が太くていいですね」と言ってくれた彼女は、

2012年3月11日に
ボクの開催した「東日本」という展覧会に駆けつけてくれ、
しかし、タクシーから降りるのさえ一苦労の中、
ギャラリーの階段を3段登り、重いドアを開け、絵を見てくれた。

そして、ボクよりずっと茎の太い花の絵を描く。

ここから強烈な作家としてのアイデンティーの元、
目の前の荒野に踏み出してゆくのが、作家の業というものならば、

彼女は名もなき花の美しさをまとったまま、
2015年9月1日に「普遍」なんてものを手にいれてしまった。

今年3度目の開催となった「東日本」という展覧会のことを、
彼女は病院のベッドの上から「リツイート」してくれてた。

最後の「リツイート」から3日後に訃報が届くのだけど、
彼女がそうやってボクのやることを応援してくれてることを
その後に知るボクは、

しょうがねえ、
絵を描くことしか想像出来ないでいます。

くそー、すげー花の絵なんか描いちゃってさ、

悲しいとかわからなく

しかし

ただただ寂しい

願わくば、
彼女の魂が彼女の描いた絵と共に生き続けますよう、
力のある編集者さん、デザイナーさん、ギャラリーさん、
ボクの知る純度の高い「やまぐちめぐみ」を
彼女の描いた絵から削り出してくれないか。

ボクにできることがあれば
なんでもやります。

やまぐちめぐみ
http://korobokko.exblog.jp

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